絵処能 アトリエ・アラン・ウエスト

先週末のお出かけ。
着物で行きたかったのだけど、朝から一日雨とのことで断念。
楽しみにしていた谷中のアトリエ アラン・ウエストさんでの能楽イベントです。

でも会場にはきものの方、いっぱいいらっしゃいました。
さすが能を楽しむ方々は違いますねえ。感心!

進行は小鼓方の大倉源次郎さん。男前~^^
きりっと格好いいのですが、お話は駄洒落満載で面白く、レクチャーも上手。
こんな方々が演奏しているなら能楽堂へ足を運びたくなります。

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今回は初心者向けのレクチャーつき。初心者の私も楽しませてもらいました。
楽器の紹介から始まって、観客参加のエア鼓の実践やら、歴史をさかのぼってのよもやま話で大変充実していました。
アトリエの外まで観光客が集まって、人だかりが出来ていました。

面白かったお話の断片。私の記憶違いもあるかもしれませんが、記録まで。
楽器の説明から。

・能管はわざとドレミファの音階から外れるよう作られている。
日本には雅楽と一緒に十二音階が入ってきたが、能楽ではあえてそれを使わず、音をそろえない方向へ進んだ。
一律の音にそろえたほうが合奏がしやすいはずだけども、一度十二音階がもたらされた後に、あえて揃えない方向への転換というのは世界的にも珍しい。
会場で杉新太朗さんの使われていたのは200年くらい前のものだそう。煤竹で、部分的に二重にして音階を外している。
・小鼓は馬の皮を張ってあり、年月がたつほどによくなる。これは会場で組み立て実演。
・大鼓は消耗品で、毎回火を使って乾燥させるため、寿命は短い。大鼓は組み立てに20分近くかかるため、実演は無理。
一番早く会場入りするのは大鼓方だとか。

・今回は笛、小鼓、大鼓の3方での演奏。実際の能はこれに太鼓と謡が加わる。(五人囃子)
・リハーサルは不要。ぶっつけ本番であわせられる。
・本番での間の採り方は、ホウ、とかイヤーとかのお互いの掛け声のやりとりで流動的に決まっていく。
ここで背中合わせの状態で演奏の実演。見えていなくても掛け声で間合いがとれる。
さらに掛け声なしでの実演。途中から笛が参加。
ご本人たちはかなりやりにくそうだけど、これはこれで新鮮。
掛け声なし+笛だと、ぐっとお囃子色が薄くなって、洋楽に近くなる感じ。

・では皆でちょっとやってみましょうということで、観客参加でエアギターならぬエア鼓。
小学校などでもやっているようです。
教育の現場で今一番足りないのは、自分から師に教えを請う気持ちだというお話もあり、なるほど納得。
日本の芸事をやる方達の折り目正しい居住まいというのはこういうところから生まれるんだろうなと思います。

・江戸時代、徳川家が毎年新年の初めには五穀豊穣を願って諸国の大名参列のもと、能を奉納した。
これは新年の国会でやって欲しいという源次郎さんの希望。(いいかも~)
徳川家が能を保護推奨したおかげで諸国に広まった。
津軽藩から薩摩藩まで、方言で言葉の通じないもの同士が、謡の文句なら通じるというので明治維新でも共通言語として文語体の謡が一役買ったというのは源次郎さんの説。

・源次郎さんの鼓の胴に描かれているのはタンポポ。
タンポポは、年中明るい花を咲かせ、人の目を楽しませてくれる。
また、綿毛になってほうぼうに旅立つところから、芸人の象徴とされるとか。
別名を鼓草。
雪輪にタンポポの意匠は、雪が消えてなくなるもの・・芸(時間芸術)をあらわし、タンポポが芸人をあらわす。
・慶乃助さんの大鼓の胴はツルでした。特徴的な鳴き声をイメージしているのかということ。

・雅楽の楽器には、龍や鳳凰など、神話的なものが描かれるが、能楽の楽器に身近な草花などが描かれるのは、日本人にとっての神仏はごくありふれた草木に宿るものという日本的な信仰の表れではないか。

このあたり、大変共感できるお話でした。

3方とも黒の5つ紋付なのですが、鼓の紐の朱の色に、源次郎さんの襦袢の袖が綺麗なブルーでよく映えます。
演奏されると袖の内側がよく見えるので・・。ぴたりと揃った袖口は綺麗ですね。
そして手の平の形が独特で、既に手も楽器になっている気がします。

なかなかこんなに間近で見られる機会はないと思うので、貴重な会でした。
会場はアランさんの絢爛な屏風でいっぱいでした。桜のものを時期に合わせて展示されていたようです。

またこんな機会がありましたら伺いたいと思います。

ちょっと追記(4月10日)
音について書くのを忘れました。
最初が三番叟の「揉み出し」活気のある曲で、舞い手の足踏みが聞こえそうです。
小鼓の音がこのくらいのスペースには丁度良いかもしれません。
とても繊細で一定ではない、ゆらぎのある音でした。狐が踊りだしそうです。
演奏されている時も鼓をささえる左の手が常に動いて音を調整しています。

大鼓ははりんと裂けそうな厳しい音なのですが、だんだんに慣れてきました。
そういえば以前現代筝のコンサートか何かで大倉正之助さんの鼓を聴いた記憶があります。
大きなホールでびっくりするほど鮮烈に響く音でした。もともとは野外で演奏していたものだから当然なのですが。
今回の慶乃助さんは正之助さんのご子息なのですね~。

最後に演奏されたのは「安宅」の瀧のくだり。
弁慶が富樫から注がれた酒を滝の急流に放つ。
3つの音が追いかけるように水の流れを表現して酒が姿を変えていき、運命の流れに翻弄される頼朝、義経兄弟を表すということでした。